設立趣旨

我が国は、急速な高齢化の進行の結果、これまでに人類が経験したことのない超高齢社会を迎えています。この超高齢社会で発生する諸問題に対処するために、医学、工学、経済学等の個々の領域のみならず、学際的な研究・実践も進んでいます。

薬学の領域においても、下記に述べるような高齢者に特有な薬物療法を阻害する問題があり、これらの克服に向けて早急に取り組みを開始する必要があります。

また、薬局数は、5万7千店を超え、それら薬局に勤務する薬剤師は、医療提供施設に勤務する薬剤師の7割を超えています。これを踏まえると、地域の社会資源として予防医療の観点からも薬剤師の有効的な活用が喫緊の検討課題です。

高齢者では、生活習慣病などの慢性疾患に認知症、骨粗鬆症といった高齢者特有な疾患が合併し、その結果もたされるポリファーマシーが、加齢変化に基づく薬物感受性の増加とあいまって薬物有害事象の発生増大につながるリスクがあります。また、認知機能の低下、視覚機能の低下等により服薬管理能力が低下した結果、残薬の増加や服薬アドヒアランス低下を招き、思ったような治療効果が得られないことがあります。さらに、住環境も病院、施設、在宅などと変化することから、服薬環境という視点に基づく薬物治療方法についても研究する必要があります。

これらの薬物療法としての薬学に関連する研究は当然のこととして、高齢化に伴うロコモティブシンドローム、サルコペニア、フレイルなどのADLの低下を防ぐ予防医療分野における臨床医、研究医、薬局薬剤師、病院薬剤師および薬学研究者や管理栄養士、そして製薬メーカーの医薬品情報担当者等の多職種間での連携の在り方、さらには、高齢者が矜持を保って人生を全うするための仕組みとしての地域包括ケアシステムの中で、在宅医療を担う一員としての薬局・薬剤師の在り方等の研究と実践を積極的に進める必要があります。

以上の課題を克服するために、老年医学の専門家を交えて、新たに老年薬学の領域と役割を明確にし、高齢者のQOL・ADLの向上を図り、薬物治療の適正化を研究、啓発する場として「一般社団法人 日本老年薬学会」を設立します。

(*)「老年薬学」は、現代的教育ニーズ取組支援プログラム(現代GP)に採択された慶応義塾大学薬学部福島紀子先生が中心となり2008年に「老年薬学」カリキュラムを作成して発表しました。

言うまでもなく医療の目的は、疾患を治癒させることですが、そのためには疾患別専門の医療を受けることが、最善の医療のように思われます。しかし、高齢者においては、日本老年医学会の立場表明にもありますように、「過少でもない過剰でもない適切な医療、および残された期間の生活の質(QOL)を大切にする医療が最善の医療である」と同じ立場に立って、一般社団法人 日本老年薬学会では薬学研究者、薬剤師、研究医、臨床医はもとより広く看護師、管理栄養士、介護福祉士、さらには、医薬品メーカー・卸、医療機器メーカー・卸等の薬物治療に関心を寄せる個人・団体の協力を仰ぎながら、研究・実践を進めていきたいと考えています。

以上の趣旨から、会員としては薬学研究者から薬学部の学生、医師、看護師、介護士、管理栄養士、および、その所属するドラッグストア等の団体、さらに医薬品メーカー・卸、医療機器メーカー・卸等の薬物治療に関心を寄せる個人・団体に参加をお願いするものです。

発起人代表 秋下 雅弘東京大学大学院医学系研究科 教授
平井 みどり神戸大学医学部附属病院 教授・薬剤部長
福島 紀子慶應義塾大学 名誉教授

目的

当法人は、高齢者の薬物治療に関する実践と研究の振興及び知識の普及、会員相互及び内外の関連学会との連携協力を行うことにより、老年薬学の進歩を図り、もって我が国における高齢者医療の発展に寄与し、社会に貢献することを目的とする。